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東海地震が切迫? 8月“駿河湾地震”の正体

駿河湾で八月に起きたマグニチュード(M)6・5の地震は、直前の予知が唯一可能とされる東海地震の想定震源域のすぐ近くで発生したことから、大きな注目を集めた。どんな断層が動き、どのように揺れたのか。東海地震は早まったのか-。十月に京都市で開かれた日本地震学会では、駿河湾の地震の研究成果が相次いで発表された。 (榊原智康)

■月の引力程度

 駿河湾の地震は、プレートの境界面がずれる東海地震とは発生メカニズムが異なり、まったく別物の地震といえる。発生当初は二つの地震の震源域が重なっているようにも見えたが、その後の分析で震源の深さは二三キロ。震源域のプレート境界より深いフィリピン海プレートの内部の断層がずれて起きたことが分かった。

 地震を引き起こした断層は、どんなものだったのか。発生当初は向きが北西-南東で北東方向に向かって深くなる一枚の断層が動いたと考えられていた。しかし、余震観測など、その後の解析によって、ほぼ直交するもう一つの断層も動いていたことが分かった。

 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の小原一成地震観測データセンター長らは、駿河湾の地震が東海地震に与えた影響を調査。二枚の断層の大きさや形、ずれ方などから震源域にどんな力を及ぼしたかを計算した。

 東海地震で動くとされる固着域(アスペリティー)のほとんどで、地震発生を促進する方向に力が及んでいたことが判明した。地震の翌日以降に静岡県藤枝市では、地下二十キロ前後のプレート境界面でM2クラスの微小地震が起きた。この地震活動は、今回の地震による影響で発生した可能性があるという。

 小原センター長は「断層の滑りを促進する方向に働いた力は約〇・〇〇一メガパスカル。月が地球を引っ張る潮汐(ちょうせき)力と同程度で非常に微弱なため、東海地震を誘発する要因にはなっていない」と分析した。

■5号機の謎

 一方、震源から約四十キロの浜岡原発(静岡県御前崎市)では、5号機だけ揺れが強かった。計測された最大加速度は四二六ガルで、1~4号機の二・五~四倍。「同じ敷地内で、なぜこれほど揺れ方が違うのか」との謎は、原子力の安全性を評価する国の委員会でも議論を呼んだ。

 愛知工業大(愛知県豊田市)の入倉孝次郎客員教授と倉橋奨研究員らは、余震分布のデータなどから二枚の断層面が動いたとする震源モデルを作成。それぞれの断層で起きた代表的な余震のデータを使って本震の揺れをシミュレーションした。

 その結果、静岡や沼津などにある観測点のほか、浜岡原発での観測記録ともよく一致。5号機と他号機の揺れの違いは地下百メートル地点の地震計でも観測されたが、モデルではその違いも再現できた。

 倉橋研究員は「地下百メートルまでの地盤構造は3号機と5号機で違いはない。もっと深い地盤の構造の違いが揺れの差を生み出したのではないか」とみる。

 地盤の特性を知ることは原発の安全にとって非常に重要だ。中部電力は、地下の構造をより詳細に把握しようと、ボーリング調査や、人工地震を発生させて海底や地中から跳ね返ってくる揺れを調べる探査を進めている。

 <8月11日に起きた駿河湾の地震> 気象庁の地震命名基準(規模など)を満たさず正式名称はない。静岡県牧之原市、焼津市などで震度6弱を観測。内閣府によると死者1人、負傷者319人。この地震を受けて気象庁は初めて「東海地震観測情報」を出した。

 <東海地震> 静岡県中西部と駿河湾の一帯を震源として発生が想定される。一帯では陸側のプレートの下に、海底のフィリピン海プレートが北西へ沈み込むため、両プレートの境界周辺がひずむ。特に境界面が強くくっついた固着域にひずみが蓄積する。ひずみに耐えられず固着域が壊れると、境界が滑って陸側プレートが跳ね上がり、地震が起きるとされる。政府の地震調査委員会の予測では、規模はM8級で最大震度7、30年以内の発生確率は87%。

 学会では、東海地震の固着域への応力集中が以前より進んでいる-との研究報告も。見解が分かれる問題も多いが、大きく見ればいつ起きてもおかしくない状態だ。巨大地震にどう立ち向かうか。意識を高め、備えることから始めるほかない。

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