四川大地震・一人っ子政策
被災地は訴える:中国・四川大地震/上 校舎崩落「一人っ子」犠牲
◇支え失い老後暗雲--制限免除でも…「今さら産めない」
震源地に近い中国四川省成都市都江堰(とこうえん)・幸福地区。仮設住宅に今、「明」と「暗」が描き出される。新しい環境で希望を見いだそうとする家族。わが子を失い、悲しみに沈む夫婦。同じ被災者でありながら対照的な光景だ。
成都市職員が失意の家庭を訪ね歩く。手にしたビラには市人口計画生育委員会からの「緊急通知」が刷り込まれていた。
「地震で子供が死亡した場合、夫婦が子供をつくり育てる意思があるなら認める」。子を失った親を対象に、「一人っ子」の産児制限を適用しないという特例措置だ。
校舎崩落により四川省だけで6000人以上の生徒・児童が犠牲になった。ほとんどが一人っ子だ。79年に始まった中国の一人っ子政策は「人口爆発」を抑えたものの、四川大地震被災地に影を落とす。政府に従い、多くの父母が一人っ子政策を守ったために「唯一のわが子」を失った。
約800人が死亡した都江堰の聚源(じゅげん)中学校の校舎崩落現場。中学3年の張凰さん(14)をなくした母親、楊平秀さん(36)は一人息子の遺影を胸に、校舎跡を見つめる。
「私がどんな気持ちなのかまったく分かっていない。愛する子をなくし、すぐ子供をつくろうと考える親がどこにいるのか」
「緊急通知」を聞いた楊さんは顔を伏せた。胡錦濤指導部が掲げる庶民に寄り添う「親民政治」は伝わらない。
中3の一人娘、田野さん(16)をなくした父親の田加強さん(37)は消えるような声で話した。「今から子供をつくり、育てる経済的余裕はない。だが、子供がいなければ将来が不安だ。どっちもお先は真っ暗だ」
* *
北川(ほくせん)県の李徳安さん(54)、黄義春さん(50)夫婦は一人娘で北川中学(中高6年制)の教諭、李清燕さん(25)をなくした。北川中も校舎が倒壊、教職員を含む1000人以上が死亡・不明になった。
娘がいない現実を実感し始めると、将来の不安が頭をよぎる。「面倒見のよい子」(李さん)は両親の老後を支える存在でもあった。
若ければ、産児制限免除で、もう1人子供をもうけることは可能だが、李さん夫婦のように年齢が高くなれば難しい。
* *
綿陽市中心部にある大手家電メーカーの研修施設は今、李清燕さんが在籍した北川中の仮校舎になっている。約90キロ離れた北川県から移転、生徒はテントで寝起きする。
悲しむ間はない。高校3年生は全国統一大学入試「高考」が6月末に迫る。四川省の多くの農民は、学歴が低い-よい職に就けない-収入が低い、という「貧困の連鎖」から抜け出せない。大学に進学できるかどうか、どの大学に進むかは人生の岐路と言える。
受験生の一人で高3女子の苟丹(こうたん)さん(18)は「高考は必ず受ける」と笑うが、家族の話になると表情が曇る。「母は亡くなった。北川の街頭で被災した」。3年3組の担任、羅斉教諭(40)は「親を失った生徒の心理的な影響が心配だ」と懸念する。
家族でただ一人、残った子らも重い荷を背負う。
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死者・行方不明者が9万人に迫る四川大地震。命を取り留めた人々も将来への不安と焦燥、そして怒りを交錯させる。被災地に生きる人たちを追った。
毎日新聞 2008年5月29日 東京朝刊
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